【芝居】「ロープ」NODA MAP
2006.12.6 19:00
NODA MAP、3年ぶりの新作。笑い少なくてずしりと堪える仕上がりは、感動ではなく痛みだけがそこにあると感じますが、誠実な視点です。120分。来年1月31日まで、シアターコクーン。
引きこもっているプロレスラー、リングの下に隠れているコロボックル、そのジムを隠し撮りに来るTVクルー。四角いリングで戦い、その中で起こっていることは咎められないのがプロレスのルール。コロボックルを名乗り隠れていた少女が実況しているリングの中の出来事はやがて...
ねたばれ、かも。
舞台奥にはびっしりと文字の書かれた黒い壁、中央には歪んだ形のリング、上手下手にちょっと物はありますが、基本的にはこの二つだけのやけにシンプルな舞台。八百長嫌いの引きこもりレスラーの物語からスタートし、隠し撮りのTVクルーや実況する謎の女を外側の視点として配し、そのあとに敵役達が登場しリング上での戦いの場面。戦いの場面には轟音とともに別の場面がクロスフェードしていきます。
前半こそ多少は笑いもありますが、二日目の昼夜公演のためかどうか、全体的に固めで笑いも少なく。客席が戸惑っているようにも感じられます。終幕に向かうにつれて、笑いはどんどんと少なく。これでもかと悲惨な光景を突っ込んだ挙げ句、多少のエピローグはあっても直前までの凄さゆえに気持ちは晴れません。芝居は笑って泣けて、というつもりで見に行くと、少々手強い舞台なのです。
扇動されること、ストームのように熱気を帯びてみんなが同じ方向を向くことの怖さ、悲惨なことをする側の人間的な気持ちの持って行き場、目撃しているだけでは責任は果たすどころか扇動として働くこと、正しい暴力なんてものはない、なんてことをこと細かに描き出していきます。リングの中に封じ込められている暴力は、観客は安全地帯からの物見遊山の対象にしかすぎません。が、それがアタシたちの現実に飛びかかってこない保証なんて、どこにもないと感じるのです。
この舞台では感動を極力抑えこむという手法をあえて選択している気がしてなりません。感動「なんか」よりも、衝撃や痛みを観客に伝えることと、その痛みが生じる構造を示すことに全力を傾けていると思うのです。今の日本のこの瞬間だからこそ作らなければいけない芝居、と作家が考えたのだとあたしは信じたい。
悪いことではありません。作家が読み解いてみせる痛みを生み出す構造は実に鋭くアタシに迫ってきます。これだけ悲惨な光景を描き続けること、それも直接的ではなく、ほとんどがテキストによって描き出されているということは印象的です。が、これは現実がアタシを圧倒してしまいます。あれだけ七転八倒して物語の世界に封じ込めようとしても、現実の強さというか酷さが、勝ってしまうというのはともすれば舞台の敗北ということになりかねないとも、アタシは思うのです。
とはいえ、舞台は実に誠実に作られています。 一緒に観た友達と語り合ったりはしづらい芝居なのはどうしたものか、あるいは、現実と舞台のバランスが何処に着地するのか。もう一度来年観るときにも考えたい、とつらつら思ったりもしますが。
NODA MAP「ロープ」
2006.12.5 - 2007.1.31Bukamuraシアターコクーン
作・演出 野田秀樹
出演 宮沢りえ 藤原竜也
渡辺えり子 宇梶剛士 橋本じゅん 野田秀樹
三宅弘城 中村まこと 明星真由美 明樂哲典 AKIRA 松村武
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コメント
藤原君目当てで観に来たおばさんたちに「どうだっ」って、野田さんが言っているような気がしました。外見だけしか見てないあなた達には、分からないでしょう~。とっても意地悪な感想が、頭に浮かんでしまいました。そういう私は、もう一度観ないと理解出来そうも無い芝居でした。明星さんの胸ばかり見ていた。個人的な感情を書いてしまいました。すいません。
投稿: ドラ | 2006.12.08 08:27
ドラさん、コメントありがとございます。
ちょっと意地悪な感じはしますね。でも、真剣な感じに「あてられて」しまうぐらい体力も使いますよねぇ、これ。
大きな声じゃ云えませんが、明星さんの胸元は、あたしもかなり「目がいってしまうポイント」でした、ご同慶の至り。
投稿: かわひ_ | 2006.12.12 01:27