【芝居】「月と牛の耳」いるかHotel
2006.12.26 19:00
遊気舎の、というほうが東京の観客には馴染みがあるかもしれない谷省吾率いるいるかHotelの公演。東京公演は実に6年ぶり( 1, 2)。 王子小劇場の作家企画・トリビュート001の、畑澤聖悟シリーズの二本目。 2001年に弘前劇場で上演した作品を関西方言に置き換えた、いるかHotel版@大阪での1月上演からわずか一年での再演。110分、30日まで王子小劇場。年明けから、ピッコロシアター。東京での動員の苦戦が伝えられますが、物語には暖かく確かな力があって、楽しめます。
修業時代の壮絶な自伝が有名な武闘家の男、個室病室に入院してしばらく経つ。息子・娘たちも道場で鍛えてそれなりに強い。久し振りに子供達が見舞いに訪れる日。長女が彼氏を連れてくると聞き、落ち着かない。連れてきた彼氏は空手をやっているとはいうものの...
どこか嘘っぽくてドタバタと落ち着かない感じのする序盤なのだけど、後半は徐々に明かされる彼らの背景が見えてくるにつれて、ドタバタの理由も明かされてしっかりと着地。よく考えたらありえない無茶な設定なのだけど、畑澤聖悟作品のこういう漫画っぽさが、あたしは好きなのです。
以下ねたばれかも
実は武闘家の男の病気は、部屋を出るとその記憶が1999年4月のある日に戻ってしまうというもの。大学生だった長女が彼を紹介するために連れてくるというその日を、延々と繰り返している。本当に家族があつまるのは年に一回、今年七回忌を迎える母親の法事の冬の日なのだけど、それ以外の日もヘルパーは来られなくなったと嘘をつき、辻褄を合わせているのです。
父親に付き合ってあの日を再現しなければいけないと7年も閉塞している息子・娘たちは、父親という強大な壁を乗り越えることができない。長女の婿となった男は、あとから読んだ武闘家の自伝(まあ、これが「空手バカ一代」的にあり得ないのだけど)に心底惚れ込んで追いついていこうとするのです。山ごもりしたりして。長女と付き合わせてほしいと頼む男に父親が酒を勧める終盤のシーンは、ヘナヘナな軟派空手をやっていた男を父親が少なくとも対等に付き合おうとみせる実にいいシーン。7年間打破出来なかったメビウスの輪のような記憶からほんの少し先に進めたのは、駄目に見えた彼だ、というのが印象的なのです。
年に一度しか来ない身内と、毎日接しているヘルパーの対比も鮮やかです。平たく云ってしまえば「遠くの親戚より近くの他人」なわけですが、「家族が来れなくなったと毎日嘘をつき続けなければいけない、嘘をつかなくていい今日はとても楽しい」という彼女の言葉は印象に残ります。
弘前劇場版の初演を見てる筈なのだけど例によって記憶はすっかり抜け落ちてるアタシ。序盤、家族達が集まるところに病院中から野次馬が押しかける理由がわからないためにちょっとドキドキします。
この手の記憶障害の深刻さをアタシは親戚も含めて実感として持ちませんから絵空事のように書かれていることにあまり厳しい感覚は持ちません。この話題を扱う芝居は今年特に多いような気もします(初演は2001年とのことですが)。が、これを扱うのは実は難しくて、実感として持っている感覚との距離がずれてしまうと、評価は厳しくなるかも知れません。
いるかHotel「月と牛の耳」(王子トリビュート 001)
2006.12.26 - 12.30 王子小劇場
2007.1.6 - 1.8 ピッコロシアター・中ホール
作 畑澤聖悟 演出 谷省吾
出演 隈本晃俊(未来探偵社) 岸原香恵 横尾学 牧野亜希子 北次加奈子(/梁川能希 ) 加藤巨樹(劇団ひまわり/アクサル) 入谷啓介 大西千保(劇団ひまわり)(/宇仁菅綾) 森崎正弘(MousePiece-ree) 奥田貴政(ego-rock) 永津真奈(ブルーシャトル/アライプ) 榊原大介 谷省吾
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「静流、白むまで行け」かるがも団地(2023.11.25)
- 【芝居】「〜マジカル♡びっくり♧どっきり♢ミステリー♤ツアー〜」麦の会(2023.11.25)
- 【芝居】「未開の議場 2023」萩島商店街青年部(2023.11.19)
- 【芝居】「夜明け前」オフィスリコ(2023.11.19)
- 【芝居】「好男子の行方」オフィスリコ(2023.11.12)
コメント