【芝居】「噂の男」パルコ
2006.8.12 19:00
福島三郎の原作をケラリーノ・サンドロヴィッチの潤色・演出で作り上げる160分。笑い盛りだくさんなのに悪意にまみれた仕上がりは骨太でずっしり重いのですが唸らせるのです。来月3日までパルコ劇場、そのあと大阪(ドラマシティ)、福岡(メルパルクホール)、名古屋(市民会館中ホール)をまわって9月下旬まで。
大阪にあるお笑いの小屋、舞台袖の半地下、ボイラー室と呼ばれる部屋は少し広く、楽屋とは別に稽古したり雑談したりする芸人たち。中堅の夫婦漫才やピンのインパクト芸人、支配人。古いボイラーを毎年メンテナンスする日。馴染みが休みのため、違うボイラーの点検技師が呼ばれる。かつて人気があった漫才コンビ・パンストキッチンのひとり、アキラが事故にあってから12年目の夏。
福島三郎といえば涙目銀座のようなウェルメイド、大泣きの芝居。ケラリーノ・サンドロヴィッチといえばナンセンスな笑い。役者もテレビでもみかけるような笑わせる力が確かな人気者5人(+2人)。そんな成り立ちからは想像も付かないしあがり。ケラさんが時折つくる、乾いた笑いと憎悪と悪意との話、たとえば「消失」にテイストが似ている気がします。笑いが少なかった「消失」に比べると、お笑いの小屋のバックステージという事情を差し引いてすら笑いも沢山。二つの相反する感情が心に溢れるのです。
かつての時代と現在を自在に往復しながら、「笑いを生業にする」人々のシャレにならない競争する気持ち、悪意、でも笑ってる人々。ストレスのはけ口はさまざまな形、性的なものや暴力、謀略などに現れるかたち。それでも物語の世界の大前提として、きれい事ではすまない、プロフェッショナルの世界にはある鬼気せまる迫力ゆえの人気というのがあることを認められないと、描かれている世界は受け入れられない気もします。
こちらの気持ちを乗せる役が一人もいない異常な空間。こんな怖い世界を一瞬たりともだれることなく見せ続けるのは、作家、演出、役者、スタッフワークもどれひとつ欠けることなくきちんと作っているからなのだろうかと思うのです。
細かく見れば見るほどいろんなことが出てくる気がします。若いマネージャーが自分の行く末をなぜ知ったのかのヒントはそこら中に隠れているし、リピートでご覧になる方はこれも楽しい。あたし的には「喜怒哀楽をすべて笑顔で表現する〜」ってのがツボ。つうか客席から拍手まで。あたしの周囲の界隈だけで云われてるのだと思ってたけど、これは共通認識なのか?
もともとクレジットされていた5人の役者は何れも見応えがあります。橋本じゅんと堺雅人の今昔切り替えの凄さ。橋本さとしの人のよさそうな表情。八嶋智人の悪意の表情、山内圭哉はファンキーに見えて、実は一番マトモな役。加えて夫婦漫才のコンビとしてクレジットされた2人、猪岐英人、水野顕子( アーノルドシュワルツネッガー)もかなり見応え。紅一点というのを別にしても、水野顕子は対等にやりあってます。ほんと。
パルコ劇場プロデュース「 噂の男」
2006.8.11 - 9.3 パルコ劇場
2006.9.7 - 9.10 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2006.9.15 - 9.16 メルパルクホールFUKUOKA
2006.9.21 - 9.22 名古屋市民会館 中ホール
作 福島三郎 演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演 堺 雅人 橋本じゅん 八嶋智人 山内圭哉 橋本さとし
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コメント
「消失」もそうですが、私は死にっぷりが「すべての犬は天国へ行く」を思い出しました。TBさせて頂きました。
投稿: ドラ | 2006.08.13 16:17
ドラさま、コメントありがとございます。
確かに「すべての犬〜」も同じ香りがしますね。
そか。
投稿: かわひ_ | 2006.08.14 22:56
はじめまして、「噂の男」を勝手に応援するブログをやっとります。
記事リンクさせていただきました。
5人の役者たちが背負っているプロ根性が、そのまんま登場人物たちのプロ根性に反映しているようで、そこがじっとりと沁みるお芝居でした。
投稿: あくまでもスローペース | 2006.08.18 12:29
あくまでもスローペース さん:
コメントありがとございます。
「噂男」ブログからのリンクでココにおいでになる方も多いようです。リンクありがとうございます。へらへら笑ってるように見えて緻密な追い込んでる感じ、プロ根性って、まさにそのとおりですね。
投稿: かわひ_ | 2006.08.25 09:08