【芝居】「散歩する侵略者」G-up
2006.6.10 14:00
様々な作演と役者を組み合わせて上演を続けるG-upの最新公演は注目の劇団イキウメが初演した、SF風味のしかしラブストーリー。130分、11日までSPACE107。
海沿いの小さな町、近くの基地には戦闘機が頻繁に飛来し、なぞの建築物が出来たりしてきな臭い感じ。3日ぶりに発見された夫は、言葉は通じるものの、その「概念」が理解出来なくなっていた。他人と話をするうちにその概念を奪うことで獲得していく…
と言ってもアタシは初演未見なのですが、まるでハリウッド映画の原作のよう。とくに終幕近くの夫婦の会話はそれらしく。頂点に向かう会話の途中で着地点は明白になるのですが、その緩やかな坂道の会話は役者の力も相まってじつに巧いと思うのです。それによって起こるパラドックスと知りながら決心する妻の強さに、アタシは号泣してしまうのです。
(ねたばれあります)
ねたばれ前提で、書くと終盤はこうです。町の人間から虫食いのように概念を獲得していく「奴ら」が、最後まで手に入らなかったのが「愛」の概念だった。もうすぐ奴らは地球を去り、そのときに宿主である夫も死んでしまうことを知り妻は、最後に夫の姿をした彼に、自分を愛してほしいと願う。妻は愛の概念を差し出す。夫(の姿をしたもの)が愛の概念を獲得すれば、妻はその瞬間に愛の概念を失うわけで、もう互いに愛を交換しあうことはない状態なのだというところがポイントとなって、終盤を盛り上げていくのです。
もう、このシチュエーションを作り上げた時点で、物語は完成したも同然で、あたしは号泣できちゃうのです。 初演を見た人の評判を聞くと、その頂点の後の描かれかたの淡白さが初演と異なるようで、たしかにごくあっさり。アタシは見てないわけなので推測でしかないのですが、初演でははっきり「愛の概念」は奪われたのでしょう。今作を見る限り、それを明確に示す感じは受けませんでした。それ故に「コトが成し遂げられたかどうか」すらも観客に委ねる描きかたに広がったとも、アタシは思うのですが、でも冷静に考えると彼が思いとどまる理由がないような気もします。いろいろツジツマは合わないのだけど。そのあと、戦争反対を叫ぶ男の下りなどは少々蛇足な印象を受けます。ここまでがあまりにもりあがるものだから。
夫婦を演じた寺十吾と猫田直の終盤の力強い二人のシーンが圧巻。脇を固める役者たちも含めて、渋いセレクションながら実力派を揃えており、全体に見応えがあります。
G-up presents Vol.4 「散歩する侵略者」
2006.6.2 - 6.11 新宿 Space107
作 前川知大(イキウメ) 演出 赤堀雅秋(THE SHAMPOO HAT)
出演 寺十吾 小林顕作(宇宙レコード) 中野英樹(グリング) 猫田直 岸潤一郎(NAィKI) 広澤草 林真也 渡辺裕樹(MCR) 黒岩三佳(あひるなんちゃら) 佐戸井けん太
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