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2006.05.21

【芝居】「メタルマクベス」新感線

2006.5.20 18:00

シェイクスピアのマクベスを下敷きにロックミュージカルに仕立て上げた一本。宮藤官九郎といのうえひでのりのコラボも注目。できあがったモノは紛れもなくマクベスであり、100+25(休憩)+105分を目一杯楽しめるのです。松本のあとの東京公演は来月18日まで青山劇場。そのあとは大阪です。

2206年の東京、大国フェンダー軍とギブソン軍にあって、ランダムスター(マクベス)率いるESP軍が急速に力を伸ばしてきた。次々と勝利を収めるランダムスターだったが、ある日森で耳にした予言めいた歌が頭にこびりついて離れない。それは200年以上前のバンド「メタルマクベス」の最初にして最後のCDの歌詞だった。その予言に呼応するように、夫人とともに悪事に手を染めるランダムスター...

意外にシンプルな装置(いや、裏は相当に大変だと思いますが)。中央に上下する奈落二つと輝度が高いのになぜか半透過のスクリーン、下手側にバンドを配置。幕がわりに左右から閉まる城壁。特に前半ではスクリーンの多用が少し鼻につく感じはします。ともかくいくつかのキーワードをすり込まなければいけないこと、急速に芝居を立ち上げるためでしょうが、ともすれば役者の動きよりスクリーンを見てしまうことも。それでも印象的だし非常に高度でクオリティの高い技術だと思いますので、バランスはなかなか難しい。

魔女の予言めいた言葉にとらわれ続け、人生のネジが狂ってしまうのがマクベスのエッセンスだと思うのです。マクベスの骨子となる王殺しやその後の没落の2206年は架空の人物たち(ギターメーカーなどのメタルゆかりの単語らしいのですが)として、予言を過去のロックバンドの曲の歌詞に、そのバンドメンバーの名前をマクベスオリジナルの人名にするという二重構造。それでも、名前と物語を明確にわけたことで、マクベスをある程度知っていると、その二つの世界の奔放さ、自在さをもった物語の広がりをよりいっそう感じ取れると思うのです。

鍋をかき回す魔女の姿を、赤いタオル地のトレーナーを着た彼女に模して見せるのは、まあよくある演出という気もしますが、これだけ徹底すればたいしたもの。終盤、赤いトレーナーをマクベスが鎧と称して着るのだけど、血みどろに演出されることの多いこのシーンを、あっさりと、しかし血塗られたマクベスを象徴しているように感じるのです。

内野聖陽と松たか子の残忍さと脆さの背反に加えて、数カ所で見せるバカップルぶりの落差が印象的。森山未來・北村有起哉・橋本じゅんが脇を固めてしっかりと物語を進めます。三人の魔女もマクベスでは重要な役どころで、右近健一・村木よし子・山本カナコがコミカルに印象づけます。

シェイクスピアをどう日本語にするかというのは相当な難問なのは周知なのです。シアターガイド誌で翻訳者・松岡和子は「明けない夜はないというけれど、もし明けなければ夜は長く続く」という従来とは逆の新しい解釈を行ったと打ち明けています。あたしがマクベスを見るときにはいつも「女の股から生まれた男に」という言葉に違和感を感じていて、うまい言葉ないのかなぁとずっと思うのです。なんていうか、言葉として。

12000円の芝居というのは相当に高価な部類に入ると思います。でも高いからといって面白いとは限らないし、どこが面白いか感じるのは人それぞれ。時間の長さも逆に、「面白くない」理由になりうるわけですから、値段も時間も相当不利な状況です。今作においては、あたしが特段の思い入れのある役者は居ませんから、満足できたってことは、多分話の構造の妙と、飽きずに見せ続けさせる演出の力と、それからたまたま風邪引いてて睡眠を爆発的に取ったり昼の芝居が圧倒的に短かった、という観る側の体調が巧くかみ合ったからではないかと思うのです。

高価な芝居といえば、 今でも役名を記載した簡単なパンフを無料で配布しているのは、もっとほめられていいと思います。有料のパンフはDVDまで付けた豪華版だそう。そこできっちり差異化ををはかるかれらは正しいとあたしは思います。劇団公演から商業演劇の領域に移ったカンパニーに多いのですが、有料パンフしかないっていうコストの削減の仕方や、ケチり方を何か間違ってる、と思うのです。

新感線☆RS 「メタルマクベス」
2006.5.5 - 5.7 まつもと市民芸術館 主ホール
2006.5.16 - 6.18 青山劇場
2006.6.29 - 7.4 大阪厚生年金会館 大ホール
原作 ウィリアム・シェイクスピア   脚色 宮藤官九郎   演出 いのうえひでのり
出演 内野聖陽 松たか子
森山未來 北村有起哉 橋本じゅん 高田聖子 粟根まこと 上條恒彦
右近健一 逆木圭一郎 河野まさと 村木よし子 インディ高橋 山本カナコ 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ 保坂エマ
皆川猿時 冠徹弥 村木仁 川原正嗣 前田悟
横山一敏 藤家剛 佐治康志 矢部敬三 葛貫なおこ 角裕子 池田美千瑠 蔦村緒里江
Metal Macbeth Group(岡崎司/guitars 高井寿/guitars 前田JIMMY久史/bass 岡部亘/drums 松田信男/keyboards 松崎雄一/keyboards)

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コメント

今日見てきました。原作のトーンは既に忘却の彼方ですけど、マルコムよりも
マクベスの方がダンカン王の息子のように見えて面白かったです。ファザコン
のお土地柄なんでしょうか。

「女の股」はアタシもなんだかなぁと思ってたんですが、wikipediaにはこん
な引用があります。

"女の胎内から生まれた者には殺されないことになっている
...none of woman born/Shall harm Macbeth."
少し時代がかった言い方で雰囲気を出すとすれば、「マクベスに手をかけるこ
とはできぬ。」くらいすかね。

で、問題の根本は実を云うとその返しなんじゃないかと思うんですが、これに
ついてはこう訳しています。アタシはなるほどと思いました。

"俺は女の胎内から引きずりだされた者だ
from his mother's womb/Untimely ripped,..."

生まれる前に月足らずで引きずりだされたんだよ、この俺は。くらいかな。

定番になってる「帝王切開」ってセリフを聞いたことがあるヒトなら「引きず
り出された」って方がしっくりくるかも知れないな、と思います。これ以上は
マチコさんにでもうかがってみましょうか。

投稿: はち | 2006.06.18 03:12

はちさん、コメントありがとございます。

ですよねぇ、この表現なんとかならんものかと思います。
「胎内から生まれたもの」と、「引きずり出された者」の
対比ということですよね。言葉に違和感がないという意味では
たしかにいいですね。でも、「帝王切開」だということを知らない
観客にとっては、やはりまだわかりませんね..

投稿: かわひ_ | 2006.06.19 01:48

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受信: 2006.05.21 13:06

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いやーー、マクベス、ホントよかったざんす。 ロンドンに行って上演して来い!と声を大にして言いたい。 コレなら大丈夫、というか度肝抜けると思う^^;。 ここでは極私的感想を述べるだけですので、公演の詳細についてはこちらをご覧ください。 良かったところ - 「マクベス」の時代がかったせりふと、メタルが絶妙に合う!!「マクベス」という演目にこれほどまでに合う音楽は他にない!と断言してしまうぞ�... [続きを読む]

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