2006.4.21 19:30
上智大学系の一派、青空美人の新作。大人の嘘が面白い三幕の企みがスタイリッシュとベタに交錯する120分、23日まで吉祥寺シアター。金曜夜時点では当日券も厚く出ていました。
植民地の地方、水門の番人の所に数年ぶりにやってきた軍人、大雨の夜の出来事の一幕目。現代、水門のある公園で子供の奇妙な作文に心配して友人と話す母親。一方的に話してしまう理系の女と初対面の男のカップルの行方、な二本の話の二幕。シガラミとオモワクが交錯する部屋で行われているのは、難解な戯曲「怪力」(=一幕目)の世界初演のオーディション、の三幕目。
ハンスリー・シュメールという放浪する作家、7ヶ国語で書かれた幻の戯曲、初の翻訳成功、世界で最初の上演、というありもしない(ですよね←このあたりが気弱)世界をでっちあげ、一幕目でその戯曲、二幕目で変奏曲、三幕目で構造を解いてみせる構成は徐々に楽しくなるのです。
一幕目の後に「翻訳家」なる人物が登場し、一幕目が難解な戯曲の初翻訳・初上演なのだという説明が挟まります。二幕目は現代の設定で、一幕目の部分的なセリフが引用されたりしながら、少し毛色の違う場面。三幕目は一幕目の舞台の出演者オーディション、という設定で一段メタな、(しかし、芝居をする人にとってみれば、より日常-卑近といってもいい-に近い)芝居、という構造になっています。台詞や構造や人物が幾重にも重なり、終盤に近づくにつれて重みは増していきます。
反面、収束点が「芝居の現場」に落ちてしまったのを残念に思う、私の友人の指摘も一面正しい気がします。一幕がもっとも広い世界、二幕目は日常に近いが全く別の世界と広げていっているのに、その二つを包括する三幕目が、「芝居の現場」、という三幕中一番小さな世界に閉じてしまったことで、芝居全体がこの三幕目を輪郭とする小さなものになってしまったという気もするのです。
それでも繰り出される台詞の面白さ、構造の面白さはあまり色あせないのです。更に、
タッパのある吉祥寺シアターという場所を生かす装置。中央が頂で上手下手に向かって奈落へ階段状。正面には水門を模した張りだし、高い天井から水が滴る。中盤の「水の溢れ」や序盤のポリフィルム(ポリ袋ですな)「洪水」など美しい演出がたくさん。劇場を制圧しているといってもいいさまざま。
また、音楽に溢れる序盤は、自由劇場風味(あんまりたくさん見てませんが)で楽しいのです。
洪水を待つ男、失望の先に舞っていたのは、彼のセツナの幸せか、と思わせる踊りのシーンもかっこいいのです。
台詞にところどころインテリ臭さが鼻につくのもご愛嬌というか計算のうち。「芝居を観たなぁ」という満腹感というか歯ごたえを感じる一本なのです。
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