【芝居】「ル坂の三兄弟」ピンズ・ログ
2006.3.19 18:00
作家・平林亜季子を中心としたプロデュースユニット、 旗揚げ作の書き込まれ具合も印象に残るピンズ・ログの新作は、地方の小さな教会を舞台に、信仰と綺麗ごとではない暮らしの話。140分、神楽坂die pratzeの公演は終了。
地方の小さな教会。牧師の父親と会社員の長男と妻、高校生の三男が住む。切り盛りしていた母親の亡きあと、心から信仰しかない父親で家はギクシャクしている。ある日、従姉妹がカナダから久しぶりに戻り、寄りつかなかった次男がやってきて、久し振りにそろう面々。ストーカー被害に合って避難してきた長男の妻は、しかし家族に何かを隠していて…
心底から神と信仰に捧げる暖かで物静かな牧師、それはだけでは食えないから苦労する周囲、さらにその外側の人々を実に丁寧に、ゆっくりゆっくりと描きます。引っかかりそうな小さな穴を埋めるように、あるいは絵本のテキストのように、観客が迷うことなく進めるように懇切丁寧な話を運ぶのです。しかしこの懇切丁寧、時に冗長を感じさせてしまいます。大きな問題というわけではありませんが、時間の長さとのバランスが難しく、観客をもっと信じてもいいのではないかとも思います。主軸となる兄弟と妻の話に加えて、三男の同級生たちや、キャバクラの従業員たち、近所の女性達と、それぞれに隙なく物語を作ろうとしているのも長さの点では不利です。
結果として、登場人物全員を裏切り、終幕直前に物語から退場してしまう妻の行動があたしには最後まで腑に落ちないのです。夫と浮気相手、実はストーカーまでも、皆好きで選べないばかりか、じつは困ったひと(自殺願望があったりと劇中で語られています)というヒール役を一身に背負うのです。誰か一人を選べないというのは、この登場人物の本心なのではないかと思いますし、実世界に照らしてみればもっともリアルな人物造形という気もします。あたしは芝居のあいだ中、彼女の救いがどこかに軟着陸するのを、それこそずっとずっと祈っていたのです。が、(あたしの全く個人的な)祈りはあっさり裏切られ、離婚という形で、ごくあっさりと決着します。しでかしたことの大きさを考えれば仕方ないことだけど、その教会は彼女にとっての救いの場所ではなかった、というのが、あたしには悲しくて。
背景を説明させるために、久し振りに帰国した人物を置くことで巧く聞き出せたり、関係のミッシングリンクを一瞬でつなぐために近所のおしゃべり好きなおばさん、というキャラクタを配置させるなど、不自然でなく観客に必要な情報を伝えることには成功しています。もっともナレーションで語ってしまっている部分があれだけ あるのならば、そちらに統合してしまうということもないことはないと思うのですが。
牧師を演じた森川佳紀の落ち着き包み込むような、しかし朴訥とした空気がいいのです。反対の俗っぽさを代表する次男を演じた迫田圭司もアクセントとなって違う空気を作り出します。
千秋楽となった日曜夜も超満員。劇団webの情報を併せると、全体に満員で続いていたようで、何よりなのです。
ピンズ・ログ第2回公演 「ル坂の三兄弟」
2006.3.16 - 3.19 神楽坂 die pratze
作・演出 平林亜季子
出演 塚義高 植木広子 小島幸子(マウスプロモーション) 小山亜由子(希楽星) 小山涼 桜井稔(ロスリスバーガー) 迫田圭司 高附克暢(Theatre劇団子) 土屋壮 中村まど加(動物電気) 森川佳紀(サニーサイドウォーカー) 森脇由紀(青年座) 湯田宗登(藤プロダクション) 和田好美
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