【芝居】「クロノス」キャラメルボックス
20周年を迎えるキャラメルボックスの新作は、昨年冬に続く「SF・原作モノ」のタイムトラベルシアターの第二弾。人を想う気持ちに真っ直ぐな、劇団のカラーをよく体現した一本に仕上がっています。25日まで、サンシャイン劇場。来年1月に横浜BLITZ。
(ねたばれあります)
物質を遡った時間に送る機械、クロノス・ジョウンター。失ったものを取り戻すために、全てをなげうって自らを過去に向けて送り出した男。過去にとどまれる時間は限られ、反動のように未来へと飛ばされる副作用にもかかわらず。
昨年の「スキップ」は、原作を削りこそすれ何も足さずに作り上げた芝居でした。同じ原作アリとはいえ、今作の趣は少々違います。ごくシンプルで登場人物も少ない原作にいくつかの人物と、サイドストーリーを足して構成しています。結果、原作のきりりと引き締まった感じは薄まったものの、人物の対比の中で逆にメインのストーリーラインが逆に強調されているとも感じます。個人的な好みでいえば、「スキップ」の方がより好みではありますが、これはこれでアリかなと。
いわゆる「SF」もの。時間を遡ることしか出来ない、反動でより未来に飛ばされてしまう、同じ物質はより未来に近い時間にしか飛べないなど、本作の中だけで設定されたいくつかの制限がじつに巧みで物語を面白くしています。結構ややこしい制限なのだけど、芝居の中にうまく取り込んでいるのも◎。逆に、およそSFと名の付くものについてまわる「〜原則」の類を注意深くよけるようになっているのも、あたし的には無駄なストレスを感じずに済むのが嬉しく、観客の入り口を広げることに役立っていると思います。
繰り返すタイムトラベルの末、自分は遙か未来に飛ばされることがわかっても、男はタイムトラベルをやめないのです。それを莫迦な一途さと片付けるのは簡単だけど、ちょっと違う気もするのです。最初はこんなオオゴトになるとは思わずに始めたことだと思うのです。それが繰り返しの中でことの重大さに、観客も主役も気づくのです。それでも、どこまでも自分で選び取った結果なので、悲劇ではなく、前向きな物語ととらえられるのではないかと。
菅野良一という役者は、正直、台詞の発音の点などうまい役者とは言えません。が、ひたむきで一途、しかしシャイな「理系男子」の佇まいを醸し出せる役者はそうは居ないと思います。一歩間違えばうざったいだけになってしまいかねない役を絶妙なバランスで「いちず」に留めるのは、役者の技巧よりももっと重要な何かなのではないかと思うのです。台詞の問題にしても、重要な台詞は他の役者に繰り返させるなど、演出は注意深く練られており大きな問題にはなりません。
ヒロインとなる岡内美喜子は今作においては、どちらかというとその場にとどまり続けることが全てにおいて重要で、力わざで押し切れないのが歯がゆい。役が難しすぎるともいいますが。加えられたキャラクタであるボクサー役を演じた畑中智行は、奥行きを感じさせ好演。声がいいのです。
過去に飛んでから未来に引き戻される瞬間、ふっと男の姿が消えるのです。照明や音響、あるいは演出の緻密な連携で生み出されるこの「消える」瞬間、観客の誰もが「消えた」と納得させられるだけの奇跡のような瞬間が凄い。これは映像では感じられないのだろうなぁ。
演劇集団キャラメルボックスタイムトラベルシアターVol.2「クロノス」
2005.11.9 - 11.20 新神戸オリエンタル劇場
2005.11.24 - 12.25 サンシャイン劇場
2006.1.12 - 1.15 横浜BLITZ
原作 梶尾真治「クロノス・ジョウンターの伝説」(朝日ソノラマ刊)(amazon) 脚本・演出 成井豊
出演 菅野良一 岡内美喜子 西川浩幸 坂口理恵 岡田さつき 細見大輔 前田綾 藤岡宏美 畑中智行 温井摩耶 三浦剛 左東広之 實川貴美子 筒井俊作
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