【芝居】「腑抜けども悲しみの愛を見せろ」本谷有希子
2004.11.13 14:00
劇作家のみならず小説でも活躍している本谷有希子さんの劇団、本人の名前そのままに「劇団本谷有希子」。旗揚げ作品の再演を、強力な役者陣で。濃密でおもしろいのです。前売り売り切れているように見えるのですが、少なくとも土曜昼は空席もそこそこあって、当日券でも観られた模様。14日まで、青山円形劇場。
初演は知らないけど、けっこう複雑は話なのに、人物がとにかくすっきりして見やすいのです。基本的には女性3人を核にした話です。その3人のキャラクタが実にくっきりしているのです。舞台では軽く語られているそれぞれの生い立ちですが、小説版ではずいぶん丁寧に描写されています。でも舞台ではこのあっさりした背景説明のおかげで小気味いいのです。ここを過去の回想にするのは常套手段ですが、それを選ばなかったセンスがいいなぁと思うのです。
この陰惨な状況の中で、飄々と暖かいキャラクタなのが兄嫁なのですが、吉本菜穂子さんが好演。抱いてくれない夫に対して初夜を迫るシーンがあるのですが、ちょっと泣いてしまうぐらいいいシーンです。物語全体でも、この人物のおかげで、ずいぶんシーンが柔らかくなるという効果があるのですが、反面、陰鬱さとの対比が鮮やかすぎて、作家の底意地の悪さ(ほめ言葉です)が見えます。
ボーイフレンドの男の子は、おそらく舞台版だけの役でしょうか。笑いの部分の多くを背負っています。微妙な間がおもしろい。作者・本谷さんは終幕近くにほんの少しだけ登場しますが、実はかなりの美人。なんで雑誌とかの写真写り悪いの使ってるんだろうと思うぐらいに。
(以下ねたばれ)
田舎の町、両親の交通事故での死から舞台は始まり、少し粗暴な兄、漫画を描いて少々暗いぜんそく持ちの妹、すべてに明るく、何も考えていないかのような兄嫁。そこに、女優を夢見て4年前に上京した姉が帰ってくる...
自分は特別な存在なのだというプライドがやたらに高いのに、それはびっくりするぐらいに脆くて、維持するためには兄や妹という存在が不可欠な姉。目の前にある「おもしろいこと」を探求せずにはいられず、更に表現せずには居られない妹。不幸がデフォルトで、ほんのわずかな幸せを何倍にも増幅して感じることで平穏を保っている兄嫁。この3人が本当に魅力的なキャラクターです。雑誌の記事では姉の自意識過剰さ加減が作家とだぶるところが多いとの自身のコメント。妹のキャラクターも、表現者たる作家ならば当然の投影でしょう。兄嫁はどうなのかなぁと、勝手に夢想したり。
劇団 本谷有希子「腑抜けども悲しみの愛を見せろ」
2004.11.10 - 11.14 青山円形劇場
作・演出 本谷有希子
出演 伊達暁(阿佐ヶ谷スパイダース) 森尾舞(俳優座) 吉本菜穂子 菅原永二(猫のホテル) 鳥海愛子 本谷有希子
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コメント
あの姉妹は、実はどちらも本谷さん本人の、自分に対する思いなのではないかなぁと
思いました。才なき悲惨と才ある残酷。
その、作家の分身ふたりと対決した吉本さん、お見事。近年の劇研では、もっとも
大器っぷり(?)を見せてましたが、いよいよ来たか、な感じはします。
鳥海さんは、初見時から、ちっとも歳とらないように見えます。
森尾さん、いかにもフェロモン姉さんな動きとポーズで、男性諸氏の目に嬉しい演出。
でもわたし個人的には、あそこまでやられると、かえって引いてしまいますが。
本谷さんは、おそらく、あんまり美人だ美人だと言われるのが、お好きじゃないんでは
ないでしょうか。そのセンで売れたくないのでは。
だから、雑誌掲載の写真なども、あんまり写りがよくないのを、わざと使ってるような
気はします。
…うーん、なんてゼイタクな。
男性2人もよかったと思いますが、男性については終演後3歩で記憶をなくす大脳ですんで
コメントできません。もーしわけなし。
投稿: おくむら | 2004.11.15 13:15