2025.04.15

【芝居】「ヨコハマ・マイス YOKOHAMA MICE」神奈川県演劇連盟

2025.3.23 14:00 [CoRich]

神奈川県演劇連盟の加盟団体による2024年の合同公演。115分。3月23日まで神奈川県立青少年センター・紅葉坂ホール。合同公演とはいえ、800席超の大きな劇場。

路地裏に暮らすネズミたち。地元の赤ネズミたちが暮らす横浜で、新興勢力の黒ネズミたちが根岸の競馬場を拠点に縄張りを奪いつつあった。突然現れた黒富士という大きなカラスが伊勢佐木町を根城にネズミたちに襲いかかる。
赤ネズミの家族たちは平和に暮らしていたが、怪我をして入院していた祖母・ホワイトを黒ネズミたちが襲う。希少種であるホワイトを黒富士に献上して取り入ろうとしている。

家族たちのように暮らす赤ネズミと新興勢力の黒ネズミの抗争と、絶対ヒールなカラス・黒富士をめぐる物語。黒富士に対抗するなかでネズミたちが団結し、暮らしを取り戻すまでを描きます。演出家が言うようにシンプルで泥臭く活気のある物語を多彩な劇団からの役者たちがダンスや歌を交えて演じます。 昭和の家族のような、というとあまりに雑な括りだけれど、どこか粗暴だけれど暖かい物語を大きな舞台でパワフルにときにノスタルジックに上演できるのは、合同公演というバラエティ豊かな役者たちによるところも大きいのです。 さすがにこの規模の劇場となると、声量がある程度必要なのだけれど、台詞が聞き取りづらい役者が混じってしまうのは惜しいところ。しかし物語のシンプルさゆえ、それが大きな問題とはならないし、赤、黒、要となるホワイトといった色遣い、あの広さの劇場を走り回るパワフルなアクションなど、回転舞台に装置を乗せて場面を切り替えるカッコよさ、ラスボス感のすごい黒富士の迫力など見た目に楽しい仕掛けが沢山できっちりエンタメにしあがっています。

家族たちと新興勢力の抗争、黒富士という大きな敵との対決という構図を解決するのは、ネズミたちの団結で、序盤からずっと存在感のある魔法の絵筆や永遠の命を実現するホワイトの存在というファンタジーは未来を描いたり、物語を駆動したりはしても、対決の解決という物語の構図の解決にあまり絡んでないのはもったいない気もしますが、それぐらいに物語もキャラクターも盛りだくさん。二時間弱をきっちり走り切るのはみごと。

希少種のネズミ・ホワイトを演じた環ゆらは腰を痛めて歩けないという設定で動きが少ないのにこの圧倒的な存在感。赤ネズミの母親を演じた仲満響香の肝っ玉母さん感の包容力。父親を演じた小山利英の人情厚くしかし粗忽な人なつっこさ、ドリフのようなドタバタに体をはる身体能力。祖父・ウオッシュを演じたなっきーの大物感。医者を演じた野比隆彦の人の良さに加えて若くはないのにあの広い舞台を走り回るパワー。ギターを背負った隻眼の流れ者を演じた江花実里はほんとに唐十郎か任侠映画かと、立ち姿もカッコよくて見惚れてしまうのです。

| | コメント (0)

2025.04.08

【芝居】「フルナルの森の船大工」タテヨコ企画

2025.3.22 18:00 [CoRich]

タテヨコ企画の新作はなんとファンタジー風味。115分。3月23日までシアター風姿花伝。

気がついたら森の中、出逢った旅人と訪れた船大工たちが暮らす村。海も川もないのにみな大きな船を誇りをもって作り続けているが、国吏がやってきて、戦争が始まり、国に協力するようにと伝える。
あこがれて教師になった女は部活の顧問となるが、専任の監督は暴力が常態化している。親からの苦情を受けるが、学校は守ってくれない。

追い詰められる若い女性教師の現実と、船大工たちが楽しく仕事をして暮らす村に訪れた危機をめぐるファンタジーを並行して進める物語。 音楽がたくさん組み入れられていて、楽しげに始まるファンタジーの序盤。使うアテの無い大きな船を楽しげに作り、歌と宴会にあふれていて、御船祭りを楽しみにしている人々の姿はまるで白雪姫の小人たちのよう。国吏が戦争への協力をもとめ、自由が奪われていくさまのきな臭さ。国吏も心の中では意味が無いとおもっているのに、役割がそれを許さず、人々が暮らしにくくなっていくこと。

ファンタジーに挟まるように、教育の現場で追い詰められる若い女性教師の現実の姿が語られます。モンスターペアレント、理解のない同僚や上司、部活の外部監督の理不尽。思い詰めた挙げ句に、と言う終盤にいたって、この女教師と彼女が憧れていた恩師、飼っていた猫の三者がファンタジー世界では旅人としてこの世界を訪れていたのだということに繋がります。徐々にこの世界で生気を取り戻していく姿。 亡くなった人々の世界、であるこの世界からの帰還を果たす終幕。

ファンタジー世界の問題は自力で船を手放すことで解決し、現実の女性はこの世界で生きる力を取り戻したところで、恩師や猫のことばによって「死にかけていた」ことから帰還を果たすので、正直にいえば、現実の困難とファンタジー世界で起きる事件は直接には繋がりというわけではないと感じるワタシで、折角ふたつの世界で描いたモノのリンクが女性ひとりの行き来だけなのはちょっと勿体ないなと思ったりもしますが、それでも二つの世界、それぞれの物語はそれぞれに見応えがあって、一本分の時間で二つの物語とも云える濃密さ。

女性教師と旅人を演じた椎木美月は真面目で戸惑う現実の人間の姿を等身大に。ネコを演じたリサリーサは、多くの歌唱シーンでの確かな力。恩師を演じたいまい彩乃や、母親とカシラを演じた舘智子の抱擁するさまが物語の懐の広さを。国吏を演じた西山竜一はヒールに見えて、その実国に対する疑問を内包する奥行きのある役の説得力。

| | コメント (0)

2025.04.07

【芝居】「ここは住むとこではありません」TEAM FLY FLAT

2025.3.20 18:00 [CoRich]

役者の大石ヨウコと、つついきえによるユニットの旗揚げ。屋代秀樹の作演で100分。3月23日まで雑遊。

借金の挙げ句、ヤクザの持っている事故物件の住人が訴える幽霊の除霊をすることになった霊媒師。幽霊が取り憑いているという男はシャブ中だが、商売はうまくいっていて女も寄り添っている。事故物件に住んでいる男は、隣に住む女と互いに気になっている。そのアパートには若い男女が引っ越してくる。

オカルトとアウトローをコミカルに、という感じで進みながら賃貸住宅をシノギにするヤクザを中心に進む物語から終盤で恋愛の物語。 当日パンフによれば、プロデューサーからの恋とコメディというオーダーに対して作演が好みのオカルトとアウトローを混ぜ込んだ、のだそう。なるほど、その通りの仕上がりで、どう考えても無茶振りなバラバラな要素を半ば力技でねじ伏せて物語にしているといってもいいぐらいなのに、不思議と軽く、気楽に楽しめるのです。

ヤクザを演じた浅倉洋介はイキがって見せているのにどこかいいひとな感じで真ん中の安定感。引っ越してきたカップルを演じた森田亘と鈴木明日歌は実家でも近所だったのに駆け落ち同然で来たけれど、結局はという小さなストーリーをキチンとふたりで。占い師を演じた、つついきえは最初こそ語り部だけれど、やがて巻き込まれ困って、ときどき真実を言い当てるのも安定。事故物件に住んでいる男を演じた瓜竜健司は真面目に生きてきて、しかし喪失感でここにの細やかに。「お隣さん」を演じた大石ヨウコは永遠の乙女の雰囲気が可愛らしい。
チャブ中の男を演じた柘植裕士、キチガイから入って段々マトモになるという脚本の流れはあるにせよ、この2時間弱でその勾配を説得力で演じる力。

| | コメント (0)

2025.04.02

【芝居】「電磁装甲兵ルルルルルルル’25」あひるなんちゃら

2025.3.16 15:00 [CoRich]

2014年初演作を改訂再演。80分ほど。3月16日まで駅前劇場。

初演では9名だった登場人物は、主役となる「(ロボットが好きなのにパイロットになれなかった可哀想な)タナカ」の清掃員の同僚2名が増えて11名に。未知の敵の襲来が間近となり街の人々は避難して、そこにある地球防衛の基地と、敵を迎え撃つための巨大合体ロボットが訓練の日々。とはいえ、基地の恐らくは訓練がよく見える休憩スペースだか長官室の前室だかみたいなエリアで、見た目にはもうオフィスのバックヤード風情で、そこで交わされる会話もSF設定なのに日常の延長のような些細なことだったりという、あひるなんちゃら的な世界はもちろんしっかりと。

街の風景は残っていて、そこがロボット戦で破壊されたりすることのノスタルジーはあって、それはそれでなんかグッときそうになるんだけど、それは物語を駆動するというよりは人物や物語の奥行きを深める方向で使われていて、いたずらにウエットにしないのもあひる節で楽しいのです。合体に一度も成功できない3人のパイロットは似てない双子と、気の合わない天才と。でも観客の見た目には全然違うのに、物語の中では唯一二人の区別がつくという点で天才、という設定が初演と同じなんだけどほんとに楽しくて。

初演ではルの数7つがつまり、1号2号4号で、どう組みあわせても1から7号と綺麗に特定出来るという設定をこのロボットの話に組み込んだことに感激した私です。二進数が全く理解出来ない人とのわちゃわちゃも楽しく。 でも1号、10(イチゼロ)号、100(イチゼロゼロ)号にすれば良かったんじゃないかとおもったりするけど、たぶんそういうことじゃないんだけども。

ロボット好きなだけどパイロットになれない清掃員を演じた根津茂尚は可哀想とは言われても可哀想さは減ったのかなと感じたのは、同僚の二人(篠本美帆、杉木隆幸)がときにツッコミ時にとんちんかんなことをいいながらもいい感じの仲間感ができるようになったからかな、と思うワタシです。 長官を演じた石澤美和はなんかそれなのに腰は低くて親しみやすさ全開なのが楽しい。天才パイロットを演じた木村はるかは、尖って吠えてる感じのある種の若さが眩しいほど。似てない双子を演じた上松コナン、堀靖明の、でもなんかほっこりさがよくて 地上要員であるリーダーを演じたまつきみちこは不思議な雰囲気はそのままに相変わらず奇跡を起こし、 自覚しているコネ入社を蜂井玲がとんちかんなことを言い出す間の面白さ、それに振り回されるのに離れない松本みゆきもすっかり、あひる節に。博打好きのエンジニアを演じた平川はる香はクールなのにクズ、みたいな楽しさ。

子供が騒いでも、携帯を切らなくてもいい、鳴らしてもみんな優しく、という前説アナウンスが心地いい 劇団で、本当に客席の雰囲気も治安もいい劇団であることもワタシが通い続ける理由だけれど、ワタシの観た回、客席ど真ん中で上演中ずっとスマホを煌々と光らせてなんか読んでた客は、なあ。舞台と観客の互いの敬意を裏切ってるだけなので、帰りの電車で傘を失くして困ってほしい呪いを。

» 続きを読む

| | コメント (0)

2025.03.22

【芝居】「業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~」Tom's collection

2025.3.2 17:00 [CoRich]

コロナ禍で知られるようになったノーミーツ主宰による新作。110分。

大学サークルから演劇を始めた男は、脚本家として売れるようになり、AI映画を流行らせたメディアクリエイターを名乗るようになる。大きな企業の新事業としてAIロボットとの映像作品の脚本を任され、軽く受けることにする。業界らしく人脈を作るためのパーティにいったり、後輩の別の映画の企画にも関わろうと、忙しく立ち回る。 しかし脚本をなかなか書くことができないし、後輩とのプロジェクトもうまくいかない。使えないと思ってた若者は海外で活躍している。

作家のnoteによれば、クリエータとして活動で生活ができるようになったものの、どこか罪悪感のようなものが積み重なって書いた作品だといいます。業界のあるあるネタ、なのかどうかはよくわからないけれど、うまく立ち回って人脈とひらめきで脚光をあびても、「本物」のクリエーターが作り出すものにどこかかなわないと感じている風景を濃密に描きます。

大学サークルの旗揚げだった劇団はいまいち売れてはいなくて、そこから就職して抜け出した男だけれど、残された劇団員たちは真剣だし、小さな賞だけれど評価を得て進んでいるし、映画会社でそれっぽく企画をでっちあげてもそれは見透かされていて、そこに居たコミュニケーションがあまり上手じゃなかった監督志望の若い女が気がつけば海外で評価をうけていたり。業界っぽい人脈パーティで、あれとこれのコラボ、みたいな話はあったとしても実際に何かを持っている人でなければなにかに結びつくこともないのです。忙しくたちまわっていても、何かを生み出したときに評価され、その余韻であるていどやり過ごすことはできても、ものを作り出し続けて評価され続けることの積み重ねでその場所にはいられない、ということの残酷さ。 彼にしても、最初に評価されたAI映画というのは、その時点のいろいろなバランスできっと評価に値するひらめきと出来上がりだったと思うのです。でも、それは出発点にすぎなくて、クリエータとして生活し続けるということは何度も評価を受けていくことでしかなしえない、ワタシにはわからない怖さ。

劇団の現在の演出家や時間調整全力投球するスタッフを演じたオツハタは、他にもこまごまと印象的で目を奪われます。腰の低い有能な劇団制作やディレクターを演じた高野ゆらこは安定してきっちり任せられる心強い人物の説得力。当日パンフには役者の名前しかなかったけれど、配役表を出してくれたのもありがたい。でも、ホントは当日パンフに載せるべきだとは思います。

| | コメント (0)

2025.03.20

【芝居】「ズベズダ」パラドックス定数

2025.2.24 13:00 / 18:30 [CoRich]

2021年の青年座上演作(180分)を、作家自身の劇団で大幅にパワーアップして120分✕三部作として上演。3月2日までザ・ポケット。

第二次世界大戦後、ソビエトはナチスドイツが開発したV2ロケットをもとに、多段式ロケットを開発し、人類初の人工衛星を成功させる。 慌てた米国は宇宙開発を猛追するなか、ソビエトは有人宇宙飛行を成功させるが、その技術は核戦争が現実味を帯びてくることになる。 米国の猛追が続き、やがてソビエトは追い詰められていく。

ソ連の宇宙開発に関わった科学者、プロジェクトのトップ・セルゲイとエンジンの開発トップ・グルシュコの「軍事的な意味から名前を残すことを許されなかった英雄」二人を核に、宇宙開発を積極的に推し進めたフルシチョフ、「国威発揚のために名前を残され、縛られた英雄」ガガーリンを絡めながら、戦後すぐから現在につながる宇宙を目指す人々の物語は、まるで大河ドラマのよう。

時間をたっぷりとれるようになった三部作、革命記念日に合わせた計画など、国威発揚と軍事を背負わされた悲喜こもごもの中盤をややコミカルに描いているし、フルシチョフの人の良さみたいなものも楽しく、偉業をなしとげた彼らにも日常がある、という感じでもあります。 いっぽうで青年座版では、グルシュコが偽りの告発でセルゲイを陥れたシーンももう少し書き込まれていた印象だけれど、今作ではそこはほんの少しになり、本心では許し会えない二人の、しかしトップの技術者として実力を認め合うバディ感が強調されているように感じます。

ダントツで宇宙開発のトップを走った第一部、アメリカの急速な追い上げと弾道ミサイルの影が忍び寄る第二部、有人宇宙開発は減速し地球上でのコロナ禍や戦争など現在に続くゆるやかな衰退や老いを描く第三部という構成。物語としてダイナミックで圧倒的に面白いのは第一部第二部だになるのは仕方ないけれど現在の私たちに繋がる第三部をわざわざ描くというのも作家の心意気。

エンジン設計者を演じた神農直隆の人間臭い造形の奥行きがすばらしい。開発主任を演じた植村宏司のトップで走り続ける牽引力の格好良さ。フルシチョフを演じた今里真の軽薄さと宇宙開発の思いの人たらし。国防工業大臣を演じた谷仲恵輔の絵に描いたようなオジサン感がなんか微笑ましい。久々の出演となった前園あかりが戻って来たのが嬉しいワタシです。

劇団サイトに置かれている人物相関図と背景の宇宙開発のまとめがとてもいいんだけど、まさか劇場に一枚掲示されてるだけとは思わず。慌ててダウンロードしてセブンイレブンのネットプリントで印刷したワタシ。カラーのこれを配るのはコスト的な厳しさがあるかもだけど、劇団がネットプリント載せて各自セブンイレブンで印刷、なんてやってくれたらうれしいかもなと思ったりします。

| | コメント (0)

2025.03.08

【芝居】「夜明けのジルバ」トローチ

2025.2.23 17:00 [CoRich]

11年目で7本目となる トローチ(1, 2, 3, 4, 5, 6) の新作。久々に太田善也の作演で。120分?3月2日まで赤坂RED/THEATER。

マンガ喫茶。地元の人気シェフ、地元からでたミュージシャン、資産家の女と付き人、地元の鼻つまみ者な男、常連客の女、初めての客。大雪の日の夜、閉じ込められている客たち。探偵も客として訪れている。鼻つまみ者な男が死んでいるのが見つかる。近くの駐在はすぐに来たが応援の警官は朝まで来られない。

オーバーな仕草で気取った探偵、癖が強めな客たちの(半)密室ミステリー。吐瀉物を喉に詰まらせた事故死と思わせつつも、その死んだ男が探偵にだけ見える幽霊となって現れる、というのが一筋縄ではいかない太田善也節。 特に前半で要素が多めどころか過剰な感じもまた、作家の雰囲気で楽しい。 ちょっとミステリー風味の白い仮面とか停電とかを交えながらも、それは敵が多い別の男を殺そうとして起こった悲劇なのだということがわかります。地元ゆえの濃密な人間関係から、その男がどうして恨まれるに至ったか、コミカルに運んでいた前半とはうってかわっての後半は、登場人物たちの多くがかかわる自殺した女を鍵にして繋がるさまは、まさにミステリーの様相。

殺された男を演じた今井勝法はこの手の癖強人物が多い役者ですが、ペーソスともいえる悲哀を滲ませ、幽霊という特殊な立ち位置をコミカルに。 探偵を演じた東地宏樹のオーバーな仕草のキレキレなステロタイプ。一作目にしてもうシリーズ作品の何本目かのような問答無用の説得力。地元の常連の女を演じた小林さやかはジャージ姿の華の無さがコミカルでしかし地に足がついた感じ。店員を演じた荒波タテオは少しとぼけた味わい。駐在を演じた辻親八は後半に見せる泣かせる芝居の説得力が凄い。公演直前に代役として入った資産家の女と付き人を演じた山像かおりと磯部莉菜子の違和感のなさもすばらしいのです。

| | コメント (0)

2025.03.01

【芝居】「ユアちゃんママとバウムクーヘン」iaku

2025.2.23 14:00 [CoRich]

iaku主宰の横山拓也が2024年に発表した同名の短編をリーディング公演として立ち上げる試み。70分。2月25日まで新宿眼科画廊 地下。

ドイツで本場のバームクーヘンの取材を終えて帰国したライターはその足で息子のサッカーチームの応援にかけつける。県大会を決めたコーチとチームの夏合宿の下見を一泊二日で引き受けることになった。が、当日現れたのは息子のチームメイト・ユアちゃんのママだった。

親のサポートを前提として成立させているいまどきの地域クラブスポーツを下敷きに、比較的時間が自由になるからと夏合宿下見を引き受けることになる男が「巻き込まれた」物語。男二人のはずが、チームメイトの妙齢の母親との一泊二日の旅になって混乱する男、それなのに相手の女は知ってか知らずか奔放でずるずると旅を続けてしまうのです。冒頭から唐突に出てくる欧州の甘くなく複雑なスパイスのバウムクーヘンが終盤、車の運転という逃げ道を塞ぐアルコールにつながるというのが周到で、小さく悲鳴を上げてしまう私です。終幕、体調不良でこられなかったコーチからの「大丈夫ですか」の電話に至ってはもう怪談の域で、振り返ってみればバウムクーヘンをモチーフにしたチラシの写真すらも怖い。

当パンによれば、講談師・神田松麻呂の語り口があってこの形での上演となったそう。あくまでライターである主人公の視点で語り、ユアちゃんママのそとから見える行動は描いてもどうしてそういう行動をするのかは描かないことこそが今作のポイントで、たしかに講談の語り口がぴったりとハマるのです。ユアちゃんママを演じた橋爪未萠里は明るくてミステリアスで、なるほど得体が知れない。

| | コメント (0)

2025.02.27

【芝居】「なにもない空間」劇団チリ

2025.2.22 17:00 [CoRich]

立川の劇団チリの「即興labo」と題して、メンバーを替えての二回公演。ピーターブルックの言葉をタイトルに。120分。

1)文字三つ:ひと文字ずつ発して単語にする。
ごく簡単なウオーミングアップとして。

2)双子エチュード:二人(=双子)が一人の人格として一文字ずつ発話し、もう一人と会話を繋げる。
このまえ も見たタイプの。

3)スピットファイア:二人の会話、後から一人が時々肩を叩き単語を入れられたら、その台詞をいわなければいけない。
肩を叩いて言葉を入れる側が、会話を混乱させるようにするか、成立させるようにするか。

4)二人の秘密:爆弾犯の二人、二つの爆発キーの仕草やセリフの縛り、シチュエーションは提示し、会話をしながら爆発キーを見つけられたら勝ち。
エチュードそのものというより謎解き的に勝ち負けが明確にあるゲーム性が最も大きい一本。エチュードは場を成立させるための媒体のような存在。

5)自分会議:二人の会話、一人はあと二人と脳内会議を開く。
アニメでよくある脳内会議的な。エチュードしている役者の頭の中で起こっていることを「ひらいて」見せているよう。

6)回想エチュード:会話をしている二人、他からカットインして、過去の回想を積み上げる
これも前回あったもの、ということはわりとこの団体ではオーソドックスな。

7)ペーパーズ:客からの紙、単語をひいたらそれをいわなければいけない。
これが一番盛り上がる、ということなのでしょう。同じ単語でも言い方一つで持って行き方が変わる楽しさ。

いくらかは稽古をして、設定やルールの面白さと役者の瞬発力に依存する「即興」の上演形態。立川という場所で実力派の役者たちを交えて定期的に稽古や公演という場を持ち続けるということの重要さ。できあがった物語を紡ぎ上げるわけではないので、参加するメンバーが一定しなくても、不定期だとしても稽古場という場を維持することができるというのがメリットで、きっと長く続けることで醸し出されてくるものがある、という気がします。

役者がどれだけ語彙を持っているかということが残酷なほど見えてしまう序盤はまさに、クオリティの半分は役者に依存するということが露呈したけれど、後半その役者もきっちり持ち直したのはたいしたもの。

とはいえ、「即興」を公演として出し物にするというのは奇跡が起こることがある反面、クオリティを維持することを明確に担保することが出来ない難しさがあるというワタシの気持ちは変わりません。それでも毎回とは行かなくても通ってしまうのは、ブラジリィー・アン・山田という人が培ってきた多くの役者たちとのつながりゆえの組み合わせの妙ゆえ。あるいはだいぶ前に小劇場で活躍していた役者をずいぶん久しぶりに拝見出来るある種の同窓会的なワクワクがワタシをこの場に引き寄せているのでもあって、もしかしたらまんまと主宰の思うつぼ、ということなのかもしれませんが。

櫻井智也のメタな視点でかき回す凄み、おがわじゅんや・竹原千恵の役者の地力、身体表現より台詞を主体とするこの場に中林舞が居る面白さ、(ピンチヒッターとして入った)中川智明をまた見られる嬉しさ。

| | コメント (0)

2025.02.24

【芝居】「Come on with the rain」ユニークポイント

2025.2.8 19:00 [CoRich]

静岡県・藤枝で活動するユニークポイントの新作。白子ノ劇場に変わる新劇場・ひつじ(穭)ノ劇場で。2月11日まで。70分。

医師の夫と専業主婦の妻。夫の学会発表のついでに寄ったベトナムの避暑地・ダラット。韓国人は多いが日本人は少ない町。 たまにはと安い宿に泊まり帰国の日、台風の直撃でフライトの予定が崩れ、宿のロビーにいる。妻は近所のカフェで出会ったバックパッカーの女をつれてくる。 女は教師だが半年以上休職しているが、長く一人旅を続けている。 宿にはオーバーステイの不法滞在の日本人がいるが、ホテルのオーナーと中が良く自由気ままに暮らしている。久しぶりの日本人に喜び、 近所の名物店に誘い、店をみてくるとロビーを出るが、外は嵐だ。

安宿で日本人ばかりで時間を潰す話となれば青年団の名作「冒険王」が思い浮かびますが、携帯のない時代の青年バックパッカーたちを描いた冒険王に対して、こちらはアラフィフアラ還世代でスマホをもち、地位も財産もあったりなかったりの格差というか違うステージにいる人々。裕福で子育てがおわった夫婦、どちらかというと権力側の夫と、専業主婦だったけれど社会と繋がりたい気持ちを持つ妻と。一人旅の女はメンタルを病み離婚し母親との二人ぐらしのなかの束の間の長い一人旅、オーバーステイの男は自由どころか不法滞在と。年代が同じぐらいでも、経済的にも考え方も立ち位置が遠く離れてしまった人々。すべてが金太郎飴のようで同質化している雰囲気だったあの時代と、格差はあれどそれぞれの顔がある現在と。いい悪いではなく、日本という国のありようが変容してしまった、ということを感じるワタシです。

どこか斜に構えた感じはあっても、目の前にけが人がいれば人のため働こうという自然な気持ちの夫、夫に蔑ろにされてきたと感じていた妻が、夫の「二人で穏やかに暮らせればよい」という言葉にキュンとする気持ち。一人旅の女が自分をみつめなおし、詩をかみしめ、味わい、再び前を向くこと。オーバーステイの男は自由で縛られたくなくどこか幼ささえもちつつ、現地の人と交わり、距離感と誠意といたずら心でしなやかに生きているけれど、ちょっと悲しい終幕。 それぞれの人生の一段落、変わること変わらないこと、見渡す周囲の風景で自分をみつめなおすことが、自分が今立っている場所に近く感じるワタシです。ワタシよりたぶんちょっとだけ年上の、劇団・成金天使時代からちょっと見ている劇団とワタシも歳を取ったなとおもったり。

現地人オーナーを演じた古市裕貴は人なつっこさ、ずっと居続ける他人の視線が優しく。夫を演じたナギケイスケはややいけ好かない感じだけれど、終盤での仕事に対する矜恃の格好良さ。妻を演じた西山仁実は秘めていた気持ちを旅先ゆえに解放して先に進める萌芽。オーバーステイを演じた古澤光徳は人たらしのバイタリティが舞台にテンションを。女性のバックパッカーを演じた山田愛は静かに考えていて一歩を歩み出す希望を細やかに。

| | コメント (0)

«【芝居】「メモリーがいっぱい」ラゾーナ川崎プラザソル