2019.04.17

【芝居】「1つの部屋のいくつかの生活(赤:シンクロ少女+mizhen)」オフィス上の空 P

2019.4.6 19:00 [CoRich]

6劇団を2つづつ組み合わせ、60分ずつ上演するショーケース企画。135分。無償の当日パンフには劇団名とタイトルのみ記載で配役表は有償のパンフにのみ記載されています。

女が住む古い家、離婚した男が出て行き女が残る日、女にはこの家に居続けるご先祖様が見えているという。あるいは女は出逢ったばかりの男を初めて家に連れてくる。近所の小学生が時々やってきていて、女に懐いている。(シンクロ少女「メグ The Monster」)

芝居の稽古をする女が見た夢、公園でホームレスの老婆が蹴り殺されるのを見たのに安易も出来なかった「夢路」
可愛くモテる同級生のことが羨ましい女、日記を盗み見て歌手になる夢と先生との恋仲などの秘密を知る「小町ちゃん」
還暦の三人の温泉旅行、三人で盛り上がり、警察官に恋心だったりお盛ん、かつての歌手・小町を思い出す「還暦こまちーず」
ホームレスらしい老婆、若者とタバコを分けあったりしつつ、自分を語り、あるいは蹴り殺されたり「花の色は」(mizhen「小町花伝」)

古い日本家屋の一室、狭い庭を望む掃き出し窓、二階への階段と左右二方向で別室か廊下につながる舞台。6劇団全てが同じセットを生かしてそれぞれの物語を60分でします。

シンクロ少女は、別れる男女と出会い接近する男女の二つの場面にもう一人という二つのシーン。それぞれを細かな断片で別の役者が演じていて、しかも登場しない「姉」の存在が語られたりと、ちょっとミスリードを誘うようなトラップを意図的に仕掛けたりしつつ、やがてその男女は時間を隔てた同一人物で、二人の出会いとその後の別れを重ね合わせて見せていることが判ります。シンクロ少女の最近の作品ではわりと得意な手法ではあります。そこにもう一工夫してあって、出逢う時の小学生と、別れる時の和服のご先祖様という不思議な存在を添えています。なるほど、小学生なら間違いなく成長するわけで、明確には語られないものの、出会いから別れまでにそれなりに長い時間が経ったこと、その二人を見続けていた視線があったことを描くのです。長い時間のなかでゆるやかに、穏やかに離れていく男女を描く彼らの作品の魅力をコンパクトに描き出す一品なのです。

mizhenは、「小町」という女性を軸にした三つの(ほぼ)一人芝居と、三人が一堂に会する賑やかな一本を組み合わせた短編集。「夢路」は老婆が蹴り殺されて何も出来なかった自分を責める女、「小町ちゃん」は美しく可愛いがオンナが垣間見える同級生への羨望と大人を見上げる視線、「花の色は」は一本目で蹴り殺されていた老婆が実は小町で、美しく、成長して歌手になり、しかし今は孤独になっているということ全体を俯瞰するように。その間に挟まる「還暦~」はかならずしも「小町」の物語とはいえないけれど、誰もが知っているほどの歌手だったという背景を描くとともに、全体に一本調子になりがちな一人芝居連作の中でリズムを変え華やかな一本が入るおかげで全体が見やすくなるように課感じます。核となるのが最後の一人芝居で、たしかに迫力と強度を併せ持った物語ではあって、それを補強するために他の三本という感じになってしまうのは致し方ない気はするけれど、二本目のなんか屈折した感じもちょっと捨てがたいワタシです。

このプロデュース公演、無償の当日パンフでは劇団名とタイトルの記載のみで、配役表どころか作演・出演者のクレジットすらありません。クレジット自体はチラシやwebに任せているということかもしれないけれど、費用の問題であれば張り出すだけでも可能かと思います。ショーケース企画では初めて出逢う劇団も多いわけで、役者が自分の顔を売り込む機会を逃し兼ねません。どの役をどの役者がやったかということを知る術が有償のパンフだけ、ややプロデュース団体をけち臭く感じるワタシです。劇団によってはSNSなどを通じて情報を出しているところもありその機動性は評価しますが、それは本来は店子じゃなくて大家の仕事、だと思うのですが、わたし。

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2019.04.15

【芝居】「ぬけがら」Nana プロデュース

2019.3.31 18:00 [CoRich]

2005年文学座で初演(未見)。ワタシは2007年の横浜未来演劇人シアターでの上演を拝見しています。120分。31日までBONBON。

母親が亡くなった数日後、認知症気味の父親と息子が暮らしている。浮気がきっかけで仕事を失った息子に、妻は離婚届へのハンコを迫っている。ある日、父親が急に若返る。

家族をつなぎ止めていた母親を亡くし、仕事も妻も何もかも亡くしてしまった男が、認知症の80歳から10歳ずつほど脱皮しながら父親が若返っていき、やがて自分よりも若くなった父親とも向き合うようになる数日間。終着点からより希望と選択肢が無限にあった若い頃に遡るという設定が絶妙で、死期が近づく父親のアルバムを遡って自分のよく知る父から若く眩しい頃に遡って「会っていく」ことで、息子自身が置かれた冴えない状況とのコントラストを少しばかり残酷に浮かび上がらせるのです。

脱皮した「ぬけがら」が散乱する一室というシュールなシチュエーションがちょっとおもしろい。アルバムの中の父親が部屋の中に浮かび息子を見守ってるようでもあるのです。セミの激しい鳴き声が去るように、父親もなくなった四十九日、心細くなり泣く男の姿は、もしかしたらこれから自分が経験することかもしれない、とずしんと重く響くのですが、それはワタシが前回拝見した12年前にはあまり感じなかったこと。ワタシの変化も感じる一本なのです。

さまざまな年代の男たちのグラデーションはちょっとコミカルですらあって味わい。男が落ち込んでいくきっかけになった浮気相手を演じた、とやまあゆみのねっとりとすがる造形はちょっと凄くて、絡み取られるよう。

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2019.04.12

【芝居】「スロウハイツの神様」キャラメルボックス

2019.3.29 19:30 [CoRich]

辻村深月の人気小説の舞台化、2017年初演で2年を経てほぼ同一のキャストで再演。130分。31日までサンシャイン劇場。そのあと大阪。平日19:30開演が嬉しい。

クリエイターたちが集うシェアハウスを運営する人気脚本家の女性と、そこの住人の一人、かつてバッシングを受けたが匿名の少女の新聞への投稿に救われたベテラン作家の男を軸に物語を描きます。人気作の盗作疑惑がからんだりはするものの、基本的には互いに救われたと思っている二人の人物それぞれの視点から二人が過ごしてきた時間を重ね合わせて見せる物語の厚みは初演と同様に見事なのです。

わりと観た芝居を忘れがちな私ですが、今作は最近のキャラメルボックスの作品ではとても印象深く、物語の構造の面白さに加えて、キャラメルボックスという劇団のベースともいえる「人が人を想う気持ち」を演じることとあいまって、出色な一本といっていいと思うのです。キャストの印象も変わらず、実にいい座組なのです。結果として、初演の自分の感想を見返すと同じ感想で変わらないというのはブログ書きとしては痛し痒しなんですが。

とはいえ、変わったところもあります。いわゆるマスコミのメディアスクラムに対しての作り手の描き方自体は変わってないと思うのですが、2年を経た私の側の感じ方はずいぶんと変化していて、「まだそんなことをしている人々」と感じるようになっています。好きなアーティストの扱われ方、メディアの中にも温度差を感じるようになっていて、変わっていないことの絶望感と、もしかしたら変わるかも知れないという希望の萌芽を、芝居を観ながら思い出したりもするのです。

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2019.04.04

【芝居】「Das Orchester」パラドックス定数

2019.3.23 18:00 [CoRich]

作家が学生時代に上演した舞台を長い時を経て再演。シアター風姿花伝。125分。

ドイツのオーケストラ、実力も人気もある指揮者。鍵十字をつけた兵士が舞台袖に入り込んでいる。 首相が気に入った指揮者はこの楽団を国営として手中に収め宣伝に利用しようと考えている。楽団の事務局長は提案を断りたいが、市からの援助を閉ざされ国営とすることを受け入れる。人気のある指揮者は演奏家の三分の一を占める「劣等人種」の排除を目論む政権の提案は受け入れられないとするが、排除はもう変えられない。

ナチス・ドイツとベルリン・フィル指揮者・フルトヴェングラーとバイオリン奏者・シモン・ゴールドベルクをモデルした史実の構図を借りながらも、物語にはほとんどの部分は固有名詞としては現れず、独裁政権がプロパガンダの一つとしてオーケストラを手に入れる史実を背景にしながらも絶妙に作家のフィクションを潜り込ませて物語を編みます。手に入れられる側のオーケストラの人々、とりわけ「劣等民族」とされたユダヤ人を巡る人々の視点で描くのです。

天才的なソリスト、絶対的な権力を持つ指揮者、その秘書、事務局長、 優秀なユダヤ人を演奏者にもスタッフにも抱えている楽団。よりよいものを作り続けるためにこの人々が必要ではあっても、市からの資金が絶たれ国の直轄になり、ユダヤ人を排除するというきな臭い政権の意向がより強く見えてくると、ユダヤ人の同僚たちを政権の手の届かないところに切り離そうと動く人々。残る人々の生活を確保しなければという想いと、連れ去られる人々を何人かでも助けようという想いとが強烈な熱意となってゆく中盤からが圧巻なのです。

芸術なりスポーツを「美しい国」であるための構成要素として取り込もうとする政権の意向は、しかし劣等とされたユダヤ人排除との裏表というのもまた切ない。芸術も実際のところ、優れているとか、美しいというものももしかしたら権力者の胸先三寸なのかもしれないということなのです。

2時間を超えけっして短い上演時間ではありません。誰にでもわかるけどあえて固有名詞を排除して描くことで逆に、より核となる独裁者と芸術、あるいは排除する側と排除される側の物語がより際立つように感じられるのです。

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2019.04.01

【芝居】「シャダーン!」れんげでごはん

2019.3.17 13:00 [CoRich]

80分。17日まで上土劇場(旧ピカデリーホール)。

ローカル線の踏切。踏切待ちをする男は一年前のことを後悔していた。後から現れた女は一年前ここで死んだ中学時代の友人が自殺だと信じられず、目撃者と待ち合わせていた。中学生の頃、男が面を着け、踏切が鳴る線路に入って祈りを捧げたら、電車が通らないのに遮断機が上がったのを目撃し、男は過去の決断を一年に一度この瞬間のこの行動によって選び直せるのだという瞬間を目撃したのだという。

踏切で一年前に死んだ女をめぐる人々の会話。死んだ女の友人はあまり会えなかったことで変化に気づかなかったことを悔み自殺を信じず、助けようとした男は片腕の機能を失い無職となり行動を悔み、目撃していた男は助けに入れなかったことを悔み。この三人の「後悔」を物語の軸にします。たまたまその会話に巻き込まれた撮影中の鉄オタの男、あるいは死んだ女の同僚で死の前の女の姿を知る女を置いて、死んだ女を浮かび上がらせるように描きます。その女をあえて何箇所かの場面で役者が兼ねて演じ、死んだ女を(首から名前を下げてコミカルに)描くことで、一人の人物がいろんな見え方をするプリズムのよう。

一つの決断をやり直せる「おまじない」という少々オカルトめいた奇妙な男の行動、そしてそれが成功したことで女は列車が迫る踏切に入り死に至るのです。「決断のやり直しのおまじない」が入れ子になってるのが面白いのです。 女が死んでからの一年間、止まったままだった時間が動き出すような終幕、ことさらに派手ではないけれど、地味に動き出す感じがちょっといい。

さまざまな理不尽のありかたを描くのも今作の特徴に思います。幅下かおりが演じた友人の序盤の誰かれ構わぬ噛みつきよう、あるいは加藤吉が演じた鉄道撮影のための言いたい放題、篠原誉が演じた公務員の言われ放題など、理不尽を言う側言われる側、そういうことがある、すこし嫌な感じも実は奥行きに。同僚の女を演じた中嶋美弥子のちょっと正体の見えない感じも楽しく、助けようとした男を演じた小口翔はしかし、ひたすら軽く、諦観な造形もその裏側が描かれることで深い。

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2019.03.30

【芝居】「じん、じん、じゃん」ヨコハマ☆ファンキー・モンキー・マン‼︎

2019.3.16 [CoRich]

神奈川演劇連盟のショールーム企画公演の中の一本。45分ほど。今後の各地でのツアーが企画されています。

病院の待合室。事故で重傷を負った男女が運び込まれている。事故を起こした車はタクシーだが、運転手の男は助手席に居て、別の女が運転していたのだという。待合室にいるのは女の夫と、運転手と同居している同性パートナー。

待合室で待つおじさん二人。交通事故を起こし手術を受けている男女は舞台には現れず、運転手が運転していないという特異な状況だったり、なぜ二人が乗っていたかの謎は散りばめられますが、物語の上ではほとんど回収されずに放りっぱなしで進みます。

非常事態で初めて顔を合わせ、手術が終わるのを待つので離れられない状況のおじさん二人きり。それぞれの背景と事故に対する動揺を語ったあとは、話すきっかけを手繰るように、整体をやってみたりと何気ない会話で徐々に距離が近づく感じ。

朝は当然事故が起こるとは思いもしなかったわけで、いつもの日常に、少しすれ違っていたりして、今朝は笑顔を返せなかったとか、ちゃんと話をすればよかったと後悔したり。子供を作ることができない同性カップル、子供を幼くして亡くした夫婦など若くはないカップルが二人きりで愛情をもって暮らしていることを丁寧に、しかしごく些細な出来事で描くのです。

手術を受けている二人がどうなったのかは結局は描かれません。待っている二人は憔悴し、ぐるぐると思い悩みながら、終幕では「絶対にもう一度笑顔で会うのだ」という決意が示されるだけなのです。この二人のおじさんの気持ちが揺れ動き、ぐるりとここにたどり着いたというだけなのだけれど、おじさん二人が造型する人物の解像度と奥行きは高く、目が離せない濃密さを持っています。旅公演、いろいろな場所で演じ熟成されていくことが楽しみな一本なのです。

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2019.03.26

【芝居】「あの時、郵便局で。」天の河神社

2019.3.16 15:00 [CoRich]

神奈川演劇連盟が主催し、出入り自由にして1時間弱の短編を連続上演するショーケース企画の一本。2018年旗揚げの若い劇団ですが、つかこうへいのスタイルをベースにするという劇団。私は初めて拝見しました。45分。

郵便局、手紙を持ってくる若い男。幼なじみの女に手紙を届けて欲しいという。郵便局は閉鎖が決まっていたが、局長の男は想いを届けるという使命に燃えて閉鎖を保留する。局員の女はかつてこの郵便局に宛先も差出人もない手紙を持参し続け、その心のSOSに気付いた局長が向かい入れたのだった。

郵便局、という消えつつあるメディアの担い手。今まで恋人がいたことのないウブな男の恋心は踏み出せず。しかしそれを暑苦しいテンション後押しし、しかも言葉だけではなく出会いにいかせるのです。郵便が消えつつあるのは止められないけれど、自分の想いを伝えるために一歩を踏み出す手助けをする、という熱い想い。一方で郵便局員を招き入れたエピソードもちょっといい。人生に絶望していた女が書いたゆくアテの無い手紙から危機を読み取り、その人を救う、これもまた人と想いを結びつける、ちょっといい話。

音楽の派手さや、終演後の役者紹介をマイクパフォーマンススタイルで行ったり、大きく張った声など、なるほど「つか芝居」のスタイル。2016/2017年に扉座が上演した「郵便屋さんちょっと」(未見)から影響を受けたのか、あるいは戯曲からオリジナルで作り上げたものかはわからないけれど、現代口語演劇全盛を一回りして、このスタイルでの上演を若い彼らが目指すのは面白く感じる私です。

割れまくるマイクパフォーマンスの音声や、張った声の台詞がなかなか聞き取りづらいなど、正直、技術的に向上すべき点は数多く、つかこうへいのスタイルを知らない若い観客たちにこの暑苦しい熱量の芝居がどう伝わるか、ちょっと楽しみな感じでもあるのです。

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【芝居】「ハルサメ」あひるなんちゃら

2019.3.15 20:00 [CoRich]

75分。17日まで駅前劇場。

三人の兄弟、長男が飼っている亀を茹でようとしてた妹に怒ってるが次男がとりなしてる。いい歳のおじさんなのに長男の家で友人が誕生日会を開こうと盛り上がったり巻き込まれてる友人、会社の人も来たりしてるが、知らない女二人が紛れ込んでる。ネットで見て面白そうだからときてしまった。

ごく短い会話の積み重ねは安定のあひる節。ちょっとおかしな人とか巻き込まれる人とかの困った感じとかダラダラ(に見える)会話で構成。この劇団、ゆるく見えてじつはわりとタイトに作り込まれてると何本も観てから気づいたワタシです。

亀をゆでようとする妹の無茶にちょっと困った感じの兄は、更に友達がノリノリで誕生会を開こうとしたり、そこに知らない女二人が紛れ込んだりとわりと何もかも巻き込まれ、困り、ちょっとトホホな感じで全体を繋ぎます。無茶振りをする妹や友人、あるいは自由すぎる会社の同僚や見知らぬ女たちの側にはその中間にあたるような立場の人が居て、3人ないし4人のバランスがぐらぐらしながら進む会話を積み重ねていくのです。

終始気楽で笑いの多い芝居なのですが、男が家族や友人や職場という共有されているコミュニティの筈なのに明後日の方向にずれた人にちょっとだけ困ったことをされる、というズレの積み重ねの面白さであって、実際のところ大きな物語を紡ぐという感じではありません。が、その積み重ねの緻密さが心地いい、という意味で、緩く見えるのとは裏腹に精度はどんどん上がっている、ということでもあるのです。

それゆえか、常連級の役者たちは、巻き込まれる部屋主の男と、奔放すぎる無茶振りの人々の間に挟まれ揺れ動き時に困ってみたりという絶妙のバランスに配されています。弟を演じた堀靖明、同僚を演じた澤唯、友人を演じた根津茂尚など、確かに舞台を支えるのです。

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2019.03.20

【芝居】「THE Negotiation」T-works

2019.3.15 14:00 [CoRich]

110分。大阪のあと17日までシアターグリーン box in box(中劇場)。

高級ホテルに集うビジネスマンたち。新興で勢いとブランド力を持つ業界最大手のCEOとCOO、片や老舗で資金力に勝る社長と秘書。合併交渉のテーブルだが、座る場所からハッタリまで、互いに負けられない緊張感で臨む。条件面はそれぞれに譲歩するべきところを譲歩し噛み合っているが、一点だけ、合併した社名、どちらの会社名を最初に置くかだけは互いに絶対に譲れない。

大きな企業のエグゼクティブな二組、緊張感溢れる企業エンタテインメントの「ガワ」にちょっと翻訳口調で赤毛物(古いね)風の台詞回しを少々大仰にしてコミカルに。交渉の時に日差しを背にして眩しさで交渉を有利にするかとか控え室の西日が不快でダメージになるとか、あるいは相手の虚を突くようにわけのわからないことを口走って攪乱するとか、些細であんまり得策じゃ無さそうな策を弄する人々を描きます。

そういうエグゼクティブ風の台詞、同じ会社の同僚でさえその「仮面」をつけたまま会話をするのだけれど、高級ウイスキーにウマっといってみたり、ハニートラップは自分に仕掛けられたのかどうかに拘泥したりと役の上での素の人間が見え隠れしたりして、ごく等身大の人が背伸びしているおかしさなのです。じっさいのところ、物語としては延々やったうえでわりとしょうもない着地点なので、結果として何も残らない(褒め言葉)コメディになっているのです。

老舗企業の社長を演じた三上市朗の重厚に見えて小心者の戸惑いっぷりが健在。秘書を演じた丹下真寿美は真っ直ぐにみえて訳判らない暴走の楽しさ。新興企業のトップを演じた山崎和佳奈もまたきっちりてるように見えてちょっと抜けてる感じ、ナンバーツーを演じた森下亮はすらりとしてカッコイイのにおかしい感じ。

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2019.03.17

【芝居】「仮面」小松台東

2019.3.9 18:00 [CoRich]

四人体制となった小松台東、少人数のキャストで通常の劇場公演とは異なるテイストを銘打つ"east"公演。70分。新宿眼科画廊地下。

元号が変わる恩赦についての説明会、講師の弁護士は到着が遅れていて人々が待っている。夫婦の二人は夫が犯した犯罪についてなのに夫は威張り散らしている。スーツ姿の男はごく丁寧で物腰が柔らかい。大雨が降ってから少し遅れてきた男は待つ人々に不躾な質問をしてたしなめられると政治家の息子でいい大学を出たのに現場仕事しかしてないとぼやく。男が気づいた向かいに座る女は元グラビアアイドルで男たちにはよく知られている。

観客もまた恩赦の説明を受けに来た参加者たち、という体裁。番号の付いたネックストラップが配られます。開演時間直後に客席で男女がちょっともめるような会話があって、観客席に座っていた役者の存在もわかって、待っている人々の会話が始まります。嫌な気分になるような不躾な会話、ときに言葉が乱暴だったりもして去りたいけれど恩赦の説明という大きな利益と外は大雨という2つの要因によって去るに去れないなかば閉じ込められた場所。

無難な会話の糸口というのが普通になるけれど、なんせ犯罪者たちだという自覚ゆえに聞くに聞けない重苦しい雰囲気で始まるけれど、遅れてきた男は無自覚にガサツな口の聞き方、頭はいいし家柄もいいのに他人への配慮を欠いて臨んだ職に就けないというサイコパス的、しかも本人は単に興味本位で恩赦を必要とはしていない人物を着火剤としてそれぞれの人物を描きます。

それぞれが犯した犯罪が何かということはなるべく隠した語り口で、むしろそれぞれの人物がどんな人かをあぶり出すのです。夫婦は夫がやたらにストレスフルで怒鳴り散らし、妻は黙って耐えつつ夫が心配でたまらないようだけれど、かつてはふたりとも役者を志しながら夫がそれを諦めたけれど妻はその道に進んでいるというアンバランスの中にあること。スーツの男はごく常識的で丁寧、食品関連の仕事できちんと仕事ができる男。客席に座る女はほとんど表情が読み取れないけれど、地元愛を持ちグラビアアイドルで傷害事件で。

それぞれの人物を描いたのち、閉じ込められた鬱憤が吹き上がる終盤、混乱の中。夫は食べる気持ちが抑えられないがゆえの食い逃げ犯、スーツの男は丁寧に見えて女に触りたがり痴漢としての姿、グラビアアイドルだった女は男を蹴り倒して暴力的だったりと、それぞれが犯した犯罪が極限状態でいちどに吹き出すのです。そういう人物たちだ、ということだけを嫌な雰囲気をまといながら丁寧というよりは事細かに描き出すという印象の物語は小さな劇場とあいまって、濃密なのです。

受付スタッフも役の一部を担うのもちょっと楽しい。

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