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2018.05.11

【芝居】「731」パラドックス定数

2018.4.30 15:00 [CoRich]

2日まで、シアター風姿花伝。再演ですがワタシは初見。120分。

戦後数年、謎めいた手紙が送られ送り元と書かれた元陸軍医学校跡に集まった人々。大陸で秘密裏の研究を行っていた研究者たちが行っていた残虐な研究が発覚するのを恐れ口をつぐんでいた。医者や研究者それぞれの新しい道を歩み始めていた。 世間では閉店直後の銀行で役人を装い流行病患者が来たとして予防薬を飲ませ行員たちを毒殺した事件が世間を騒がせている。

劇場近く椎名町で起きた帝銀での毒殺事件。戦後間もない時期の謎だらけの迷宮入り事件を起点にしてタイトルの秘密研究の研究者たちが関わっていたかもしれない、という史実の隙間を想像力で埋めるパラ定らしい一本。二液での毒殺など専門的な知識を持ったと思われる手口に731と帝銀事件をつなぎ合わせるのは必ずしも独自の視点というわけではない(参考文献としてクレジットされています)けれど、陸軍医学校跡地の廃屋という誰もいないはずの場所を設定することで、作家らしい自由な空想の会話がみっしりと濃密に。

今となっては非道な研究に関わった人々。その場ではみながそれが正義と考え、あるいは考えないようにしていたけれど、戦後になってそれを深い後悔で良心の呵責に苛まれるもの、あるいはそうなってもなお、あの研究は間違いなく人類を進歩させるために必要な医学の一歩で正しかったと考えるもの。戦時中だから突き進めたということはあるにせよ、研究と倫理の間の考え方がグラデーションのようにさまざまに描かれます。あの時に幹部は早々に逃げ出して、後に残された兵卒たちという対比も見事。

口外厳禁とされそれぞれがそれぞれの道を歩んでいるけれど、高度な毒殺事件とそのころ送られたなぞめいた封筒をきっかけに互いの裏切りを防ぐよう監視のために定期的に集まる人々は、時に互いを揶揄したり生きるために必死だったりの小さな会話を繰り返し。 大陸のあの場所で起きていたこと、それをどう考えていたかということ、 それが非道だとしても、真理を探究するということに対して絶対的な価値を置くことの、ある種のストイックな研究者の真摯な姿勢。とはいえ、それはコントロールを失った研究者の姿でもあって、その人々と倫理的に相容れないと感じて距離を置いてみたりしつつ、食い扶持のためにそれが変わっていく、という後の時代の血液製剤にまつわる薬害被害の広がりの端緒を見るようなシーンもあって、戦後何十年もの間の日本の医療の在り方のある種の暗部を凝縮して地層のように切り口で俯瞰してみせるような鮮やかさが実に見事なのです。

作家の発想はさらにもう一歩、731の研究を進めた結果の二液型の毒薬を更に実験しよう、という力が働いて、平和なはずのこの時代に人体実験を行ったのでは、と踏み込むのです。

もっともリーダ格を演じた関村俊介は観たことのない雰囲気を纏います。表面的な軽口とは裏腹に、優秀な洞察力と冷徹さという厚み。序盤罪の意識に苛まれる男を演じた西原誠吾の這いつくばる感じから終盤に向けて自身を取り戻しさらに行きすぎるダイナミックレンジの広さ。

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