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2017.02.16

【芝居】「鯨よ!私の手に乗れ」オフィス3○○

2017.2.5 16:00 [CoRich]

80年代小劇場の香りを存分に、その時代を牽引してきた劇団の女優たちを揃えて上演する120分。5日までシアタートラム。

入居者のほとんどが認知症の介護施設。東京で演劇を60歳まで続けてきて今でも忙しく暮らす女・絵夢が突然取れた休みの合間に入所している母を見舞う。食器や部屋の細部にまで細やかな暮らしをしていた母親が施設で規則に縛られて暮らすのにショックを受け職員たちに不満をぶつける。同じ施設に入所していたり、職員として働いている同世代の女たちは、母親も含め40年前に解散した地方劇団のメンバーだったが、主宰が行方不明になり上演できなかった最後の作品を再びつくりあげたいと約束し、かつて稽古をしていた古い工場の跡地に建てられたこの介護施設に入所している。
その幻の作品は、南洋の島の子供たちを救う病院船の物語だった。主宰が書いた物語だった。その結末は認知症患者に上演させるのは忍びないと台本を介護士が破り捨ててしまっている。結末を自分が書くと、絵夢はいいだす。 病院船の危機を救う国境なき巨大潜水艦・ブルーホエールの幻想は、母親が子どもの頃に見た巨大な鯨の姿煮重なり合う。

ワタシがリアルタイムで観ていた世代ではないけれど、青い鳥、ブリキの時発団、NLT、東京乾電池、劇団四季と蒼々たる面々の女優たち。渡辺えりらしい、現実と妄想の間をするりと行き来するファンタジー仕立ての後半だけれど、前半では老いて記憶が怪しくなり、介護はされているけれど「きちんとした生活」を自分で送れなくなっている母親のこと、あるいは自分もまた還暦を迎えて若くはなくなっているというおそらくは作家自身の現実をベースに描きます。この二つを繋ぐのは、かつては演劇を志し、あるものは成功しあるものは演劇を離れて暮らしてきた女たちのここまでの人生、さらには認知症ゆえの妄想のファンタジー。

現実パートでは、老人ホーム自体の入所待ちが長いこと、今は寝たきりで出ている父親の年金を合わせたおかげでこの介護施設に入ることができ、弟夫妻の共働きの生活も、あるいは東京で還暦にもなって蓄えもなく演劇で暮らしている女の、絶妙というより綱渡りなバランスでなんとか成立している今の生活が示されます。それは今の日本で老いていくことの現実を描き出すのです。それは作家の経験かもしれないし現在の日本が抱える現実かも知れません。それでもまだ元気ならば働かなければいけないのもまた現実で。

後半のファンタジー仕立てのシーンは、認知症の役者たち、というベースの上にそれぞれの女たちのこれまでの人生を描きます。それは決して華やかなものばかりではなくて、出征兵士の慰み者として自分を売った母親だったり、出稼ぎに出たまま音信不通となった母親だったり。わりと深刻な背景だったりもしつつ、 時にタップダンスや、ミュージカル風に歌い上げたり、屋体崩しだったり。芸達者な役者たちがそれぞれのフィールドで、それはまるでショーケースのようなのです。

インタビュー記事によれば、作家自身の投影という役を担うのは座組では若い桑原裕子。還暦という設定は流石にご愛敬な感じではあるけれど、ブルドーザーのようにパワフルで、正しいと思うことに一途な造形はたしかに作家に重なり、ベテラン勢とキッチリ互角で、それこそ高校生の時の舞台から見てるアタシには、思えば遠くに来たもんだ、な気持ち。ピンチヒッターで母親を演じた銀粉蝶は必ずしも彼女の背景をもった役ではないけれど、ちょっとしゃれっ気と存在感。その義理の娘を演じた広岡由里子はとぼけた毒が存分な役で奥行きを持って描きます。タップなどダンスがキレる坂梨麿弥も印象的。

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